山羊昇

 ってな内容を俺の弟が電話越しで淡々と言うもんだから、俺びびった。「靴のかかとを踏んではいけない」ってあいつ今でもちゃあんと守ってんのな。えらいよ。うん。俺、こっちに来てからもうずっと靴すら履いてねぇもん。めんどくせぇじゃん。蒸れるし。ってか、こっちの人たちみんなそう。そもそも歩かねぇし。歩いてたら二度見されるよ。うわっあいつ歩いてるわーって。たいていチャリだかんね。俺はでかくなってからこっちに来たからあれだけど、ここで生まれてでかくなった奴らの足の裏とかね、ヤバいよ。赤ちゃんみたい。ぷよぷよ。っつうかさ、概ね砂漠とか黒い砂山とかさ、いちいち報告してくんなってぇの。いちおさ、一応ね、お兄ちゃんの街でもあったわけじゃん。そこは。俺もうそっち行けねぇし。 
そんで、おまえはどこ行くのって訊いても「分からない」って。あっそう。分からないのに出発しちゃうの。おまえらしいよ。こっち来れば?って言おうか迷ったけど、あいつ靴好きなんだろうなーって、いや、かかとを踏まないで靴を履くのをずっとしてたいんだろうなーって、だったらこっち来ても浮いちゃうだろうなあいつって。まぁいいや。達者でな。電話くらいまだ繋がるっしょ?気が向いたらまたかけろよ。

『ミち』

mimaculの公開ワーク「連歌のように」一本の小説(なのだろうか)をメンバー全員で書く試み。タイトルは『ミち』 【ルール】 ・決めた順番で回していく。嵯峨→山羊→河合→立蔵→堀井→林→川瀬→下村→京野→高橋→たまな→小高→元岡→古川 ・人物が登場する場合、名前は登場順にイ、ロ、ハと付ける。 ・1回の更新が短くても構わない。 ・前の人が書いたものを引き継ぎつつ、文体や口調が変わってもよい。